一橋地理

傾向

 一橋大学の地理は例年、試験時間は120分、大問3題・各400字程度で合計1200字ほどの論述問題で構成されています。量は もちろんのこと、質も日本最高レベルであり、難易度で考えると間違いなく日本一難しいといえるでしょう。内容は教科書を逸脱 したものも多く、参考書や新書による知識がなければ“完全な”解答をすることは難しいものとなっています(合格点を取れる解 答は可能。その方法は“対策”にて)。またグラフや統計資料を利用した問題が多いのが特徴であり、それらの資料を用いていか にその地域の特徴を読み取って制限時間内にポイントを押さえて解答できるかがカギと言えます。
 具体的な話に移りましょう。
 まず一般的な考え方にのっとり教科書的なカテゴリーで出題傾向を紹介します。
 系統地理分野では、都市・人口・民族・環境問題・産業(農牧業や工業)が頻出で、これらに経済を絡めて出題されることが多 くなっています。また、地誌分野では、民族問題や地域格差、地理という科目に関連の深い歴史背景などの出題が多くなっていま す。歴史的背景を問う問題では地理ではなく世界史的な問題(例:2003年の大問1)が出題されることもあります。

 ・・・ここからは僕なりの傾向のとらえ方になります。参考までにどうぞ。
 教科書を逸脱した問題が出題されるのだから、教科書レベルの知識が身につけるのは当然として、それ以降の学習に関して目安 になるように傾向を紹介します。
 基本的に日本地理は出題されにくい傾向がありますが、昨年珍しく出題されてしまったので手を抜かない方が無難といえるでし ょう。逆に、ブラジルやオーストラリアなどに代表される『中進国』、中国や東南アジアに代表される『近年発展の目覚ましい発 展途上国・地域』、『二、三年後に世界で注目されるような地域』に注目した問題が特に出題されやすくなっています。
 また各予備校の一橋模試での出題を分析した結果、イタリアやトルコやインド、南アメリカなど『地理的に興味深い事柄をもつ 国・地域』が出題されるだろう、と予想されているようです。
 かなり昔の話になりますが、『地名が隠された地形図の中にある私鉄の両端の駅名を答えさせる』、という出題意図が全くつか めないものも稀に出題されたことがあります。

 以上の傾向から、取れる所を確実に取りさえすれば、他に差がつくことは滅多にないので地理担当の僕が言うのもなんですが、 英数に力を入れた方がコストパフォーマンスがいいと思います。

対策

 まず地理を好きになりましょう。地図帳などを使って妄想旅行なんてするといいかもしれません。  ※本気で言っています※
 地理を好きになれたら、以下の地理受験の具体的な対策に進みましょう。

<系統地理>
 満遍なくどの分野も学習しておくのは当然ですが、特に系統地理に関しては力をいれましょう。
 系統地理の考え方が定着してさえいれば知識的に不足していたとしても、その場で考え、合格点を取れる解答を作ることが可能 です。奇問難問の多い一橋大学の地理を受けるなら、他大の地理受験生よりも一層定着させておく必要があります。
 いくつも難問にぶつかり、その度に系統地理の知識に基づいた地理的な考え方をして解答して脳の回転力・思考力をあげておきま しょう。これが冒頭部分で述べた、合格点を取れる解答を作る方法です。
 今年の一橋の地理では珍しく日本地理がでたので、対策不足だった人も多かったでしょう。そんな中、明暗を分けたのはどれだけ 地理的な考え方ができるかどうかだったと思います。

 僕個人的に役に立ったのは「対策」のはじめで述べた、世界地図を用いての妄想旅行です。
 馬鹿らしいと思うかもしれませんが、世界地図・ケッペンの気候区分・世界中の山脈や川など知名の丸暗記につながります。特に ケッペンの気候区分の丸暗記は大変役に立つ上に、時間もあまりかからないのでお勧めです。またネットを活用し、その地域の写 真を見てみるのもいいでしょう。百聞は一見に如かずというように、Cfb:西岸海洋性気候、Cs:地中海性気候・・・といったよう な言葉で覚えるよりイメージがつかみやすいと思います。

<地誌>
 系統地理の知識が定着していればある程度は戦えるのですが、地誌の知識は更にもう一歩合格へ近付くために必要となってきま す。
 どのような歴史のもとに、何が原因で、どのような発展・問題が起きて、その結果いまどうなっているのか、というような事を 「傾向」のところで『』に括られた出題されやすい国・地域について調べておきましょう。また一橋模試で出題された地域に関し ても調べておくといいでしょう。

<論述に関して>
 論述は、はじめは雰囲気で書いてしまう人が多いんじゃないかと思います。
 しかし点をとれる解答というのはいくつか条件があります。
@ 問われていることを把握しそれに対してちゃんと答えているか
A 不要なことを書いていないか
B 同じことを無駄に繰り返していないか
C 論理的に矛盾がないか
 以上のことを当たり前だとは思いつつも、意外にできていない人がたくさんいます。しっかりと意識して論述してみましょう。

☆論述する際の手順
1.何が問われているのかをしっかりと確認します。
 具体的にいうと、出題者が何を解答してほしくてこの出題をしたのか、といったことの確認です。これがズレていた場合、書い たことがあまり知られていない素晴らしい知識でも、どんなに正しい事実でも点数は全くもらえません。
2.解答に必要な“ポイント・短い論述”などのパーツを論述する前にメモ書き程度に挙げていきます。
 当日下書き用の紙が用意されるのですが、すべてを下書きすると1200字を2回も書くことになるので見直す時間が不足してしまい ます。この手法をとることによって@〜Cの条件を確認する時間が増え、より高得点しやすい内容に校正できるようになります。 ちなみに論述のパーツの数ですが、僕の場合「20〜30字につきパーツ1つ」を目安に用意していました。たとえば「○○について15 0字で答えなさい。」という内容の問題のときには5つパーツを用意していました。
 これに関しては、皆さん1人1人が論述を作り模範解答などを確認していく作業の中で感覚を掴んでいくと良いでしょう。
3.実際に解答用紙に論述していきます。
 今まで用意してきたものをまとめ上げる作業です。注意すべきことは、上の例を用いて「○○について150字で答えなさい。」と いう内容の問題のときに、パーツがあまり用意できず「自分の解答では150字に満たないから言い回しを長いものにかえて体裁を保 とう」としないことです。出題者が“150字”と設定したことには明確な意図があります。それに対してパーツが用意できないとい うことは、知識や思考力の不足しているということです。むやみに引き延ばしてダラダラとした解答をしないようにしましょう。 逆に書くことがありすぎる場合、それは出題者の意図を読み違えている可能性が高いでしょう。これは問題文で、すでに触れられ ている内容を、解答の中に盛り込んだりしてしまうことが主な原因です。『気候』関連の問題でやりがちなので注意してください 。また「比較しなさい」という問題、または比較して答えるべき問題のとき、比較した要素がずれている・片方にしか書かれてい ない要素がある、などミスが頻繁におこるのでこれに関しても十分注意が必要です。
 昨年のメコンデルタとトンキンデルタの比較問題を確認してみるといいでしょう。上記の注意事項に気をつけているかどうかで かなり差がつく問題です。
4.解答を見直す。
 書いてしまってから誤字脱字に気づくことがよくあります。僕も「言い回しを変えて短くしそこに不足分を挿入する」など無駄 な抵抗をしてきましたが、これだと論理展開がややこしくなったり、重要なパーツが分かりにくくなってしまったり、と色々副作 用が起こってきます。思い切って書き直したほうが早いということもあるので、早めに決断するようにしましょう。時間は待って はくれません。

 以上1〜4を書いてきましたが論述に関してはよく言われるように、第3者の、しかも論述の書き方に関して知識のある方の目を通 すことが大切です。あくまで上記の注意点は、本番の指導者がいない状況の下、自分でチェックするためのもので、添削は信用で きる方にお願いするべきでしょう。

おすすめ参考書

・「合格講義!地誌編−佐藤裕治の地理」(大学受験V BOOKS/著 佐藤裕治)
 論述のパーツや解答に必要な知識がたくさん詰まっています。宅浪していたためこなした参考書の総数が200冊を超える僕が、自 信を持ってオススメします。解説も読みやすく分かりやすいし、目の付けどころが面白く何回読んでも飽きないので完全に覚えるま でやってみましょう。

・「データブック オブ・ザ・ワールド―世界各国要覧と最新統計〈200X年版〉」(二宮書店)
 受験用参考書ではなく、毎年データが更新される統計資料集です。しかし、ただの統計資料集ではありません。
各産業の生産物のランキング・生産量、各国の簡略史に加え、政情、さらには大使館の電話番号まで載っています。最強の統計資料 集といえるでしょう。

・「山岡の地理B教室[part1,part2]」(東進ブックス/著 山岡信幸)
 若干私大向けな参考書ですが、読みやすさは抜群です。基本的な地理の事項を学習できます。単語記憶が多いので、滑り止めに慶 応を受ける予定のある方は一度目を通しておいて損はないでしょう。

・「権田地理B講義の実況中継[上,下]」/著 権田雅幸・佐藤裕治
 論述の書き方に関して触れている数少ない地理の参考書です。また分らない問題に対して脳をどう回転させて解答を作っていくの かなど、知ってすぐ使える知識がたくさん詰まっています。

・「世界経済入門―第三版」(岩波新書/著 西川潤)
 一橋大学の地理では経済的な内容が問われることも少なくはありません。背景知識として世界経済の動きを知っていると、その面 から回答のポイントに気づくことができるなど、一度読んでおくと他の受験生に差をつけられる一冊です。

・地理用語集
 過去問や問題集の解答をみてわからない単語などがあったときに辞書的な使い方をしていました。また論述する際に使う地理的言 い回し・単語が集まっているので、最初のうちは問題を解くときに使うといいでしょう。

 教えてもらわなきゃできないなんて、ただの甘えです。参考書を甘く見ないようにしましょう。

最後にひとこと

 一橋受験で地理は他の社会科目と比べてかなり難しいものになっています。一橋模試などの平均点や最高点をみれば一目瞭然で す。しかし受験を通して得た地理の知識は、世界史・日本史・倫理政経にくらべてかなり実用的なものです。社会科学の総合大学で ある一橋大学に入って最初に必要だと感じたのは、世界でいま何が起こっていてどの地域でどんな問題を抱えているのかを把握して いることでした。その点地理受験生は、他の受験生に比べてこの知識に長けているので有利だと思います。受験のためだけでなく、 自分の将来へつながる勉強だと思って必死で頑張ってみてください。地理をやっていてよかったと思う日がきっと訪れます。

○この記事を書いたのは・・・
広報ちーふ(商・公立・男。受験に必要なものは「勉学を楽しむ心」。)